ホーム > 【『道を継ぐ』刊行記念対談】人生に迷ったらカリスマ女性美容師に聞け! apish樋口いづみさん(前編)〜出産・子育てが「仕事の幅」を広げてくれた〜

【『道を継ぐ』刊行記念対談】人生に迷ったらカリスマ女性美容師に聞け! apish樋口いづみさん(前編)〜出産・子育てが「仕事の幅」を広げてくれた〜


49歳でその生涯を閉じた伝説の美容師鈴木三枝子さんを描いた『道を継ぐ』(アタシ社)が、「私もこんな風に生きたい!」「女友達みんなに読ませたい!」と大反響。なぜいま、女性美容師の生き方がこれほどまで一般の女性に支持を受けているのでしょうか。 『道を継ぐ』の著者の佐藤友美さんと、カリスマ的人気を誇る女性美容師さんの対談連載です。

※当記事はHAIR(hair.cm)からの転載記事です。(元記事:https://hair.cm/article-36171/

【前編】出産・子育てが「仕事の幅」を広げてくれた

連載3回目の対談ゲストは、人気サロンapishで活躍する樋口いづみさん。子育てをしながら一線で活躍するのは難しいと言われていた時代に、35歳で出産し半年で復帰。彼女の出産を機にapishには続々とママ美容師が誕生し、全国の美容院で「ママが働きやすい職場づくり」の動きが拡大しました。その礎を築き、後に続く後輩たちに「道」をつくってきた彼女の生き方・働き方とはいったいどのようなものなのでしょうか。

ゆとり世代のスタッフは「アメとムチ作戦」で育つ

女性美容師は究極の「人間力」が求められる仕事

佐藤:今日は「強く美しく生きる秘訣を人気女性美容師さんに聞く」というテーマで、樋口さんにお話を聞きにきました。

樋口:なんだか、恐縮です(笑)。

佐藤:私、女性美容師さんって、あらゆる能力を必要とされる究極の仕事だと思うんです。技術職でもあり、デザイナーでもあり、接客業だからコミュニケーション能力も必要だし、ファッションセンスや美への知識も備わって、初めて売れっ子になれる職業ですよね。

樋口:確かに、そうかもしれません。美容院は「人」そのものが商品なので、人材教育も大事な仕事ですし、管理職になるとマネジメント力も問われますよね。

佐藤:そう!あらゆる人間力が要求される職業だと感じます。取材前に樋口さんに美容師としての能力について自己採点をしていただいたのですが、やはり、人気美容師さんはどの分野ももれなくカバーされているなと思いました。

佐藤:『道を継ぐ』にいろんな職業の女性からの共感の声が寄せられたとき「トップを走る女性美容師さんの生き方は、働く女性にとっていろんなヒントが詰まっている」と改めて気づいたんですよね。

樋口:お役に立てるように頑張って話します!

優しくするだけでも厳しくするだけでも後輩はついてこない

佐藤:樋口さんはapishが7人でスタートしたときからのオープニングメンバーですよね。今はずいぶん大所帯になりましたね。

樋口:100人近くになりました。もう、私なんて、新入生から見るとお母さんみたいな存在です(笑)。

佐藤:『道を継ぐ』を読んでくださったときも、「私もapishの母として、頑張らなきゃ」という感想をいただきました。あと「私、最近、丸くなりすぎちゃったなあと反省しました」とも(笑)。

樋口:最近の若い子たちは打たれ弱いから、とにかく優しく優しく教育してきたんですよね。でも『道を継ぐ』に書かれていた鈴木三枝子さんの厳しいけれど愛のある教育法を読んで「優しくするだけが正解じゃないんだなあ」と思ったんです。

佐藤:美容師さんに限らず、ゆとり世代と言われる若いスタッフの指導には、働く女性の誰もが悩みを抱えていると感じます。樋口さんはどのようにされているんですか。

樋口:若い子には、アメとムチ作戦です(笑)。

佐藤:アメとムチ…(笑)。

樋口:常にその子のいいところを褒めてから、注意するところをつけ加えるようにしています。若い子は、注意されるだけでは頑張れないんですよね。
それと「後から言わない」ことを意識しています。その日の課題はその日のうちに伝えるように徹底していますね。

喧嘩上等!鍵は「1対1」の関係づくり

佐藤:離職率の高い美容業界において、apishさんは「人が辞めない」ことで有名ですよね。

樋口:それに関しては2年生が1年生の、3年生が2年生の面倒を見る「シスター制度」がうまく機能していると感じます。1人に対して1人ずつ「自分専属のお兄さんorお姉さん的存在」がいることで、小さな悩みでも相談できるみたいです。

佐藤:「1対1」で向き合うというのがいいんでしょうね。先輩後輩同士、喧嘩になることはないんですか?

樋口:それはもう、しょっちゅうですよ(笑)。でも、apishでは気が済むまで話し合わせるようにしているんです。一番良くないのは、お互い険悪な空気のまま無視し合うこと。それに比べたら…。

佐藤:喧嘩上等ってわけですね。

樋口:はい(笑)。とことんぶつかり合えば、お互い同じところを目指していることがわかったりしますから。

佐藤:『道を継ぐ』でも、1人(自分)対100人の関係性を作るのではなく、1対1の関係を100個つくるという話が出てきました。対立を恐れずに本気でぶつかり合う話もありました。同じ志を持った仲間と前進するためには、時代も世代も超えて大事なことなのかもしれませんね。

樋口:私もそう思います。

結婚も出産も誰かに頼まれたわけじゃない。自分が望んだことなのだから自分で道を作る

プレスの仕事を兼任しながら、時短勤務

佐藤:出産後の働き方は、女性にとって大きなテーマですよね。樋口さんの場合、たった半年で復帰しただけでなく、新たにプレスを兼任されると聞いて当時は驚きました。プレスの仕事って、普通、専任の人を雇うくらいの仕事量じゃないですか。

樋口:確かにそうですね。ただ、メディアの方々と交流があって、お店のこともわかっている人にやってほしいということになると、あれ? 私…、かなあと(笑)。

佐藤:「働く時間」と「子育ての時間」のバランスはどんな感じですか?

樋口:週4日サロンに出て、基本的には夕方4時にあがっています。保育園のときは5時半あがりだったのですが、子どもが小学生になって4時にしました。プレスの仕事は主に行き帰りの電車や帰宅後にやっています。忙しいときは夜6時から12時くらいまで携帯電話が手放せないときもありますね。

出産後復帰する有名店の女性美容師は当時ほとんどいなかった

佐藤:働く女性にとって出産のタイミングは悩みのひとつです。樋口さんは、もともと出産を考えていたんですか。

樋口:結婚した時点で子どもがほしいと会社には伝えていたんです。でもなかなかできなくて、3年くらいかかったんですよね。それがちょうど新規出店のタイミングと重なっちゃって…。

佐藤:樋口さんの妊娠の話を聞いたとき、坂巻さん(※apish代表坂巻哲也さん)は驚きのあまり「おめでとう」と言葉をかけることすら忘れて絶句してしまったという話を聞いたことがあります。当時、表参道の第一線でバリバリやっていた美容師さんでも、出産後に復帰する人はほとんどいなかったし…。

樋口:apishにも産休や育休に関する社内制度はありませんでした。でも今ではその制度も確立できて、ママ美容師も5人になりました。今も2人が産休に入っています。

佐藤:まさに樋口さんが新しい道を作ったわけですね。

「突然」へのプランを作る。子どもを言い訳にしない

佐藤:出産後、仕事を続けるうえで一番大変だったことはなんでしたか。

樋口:一番意識したのは子どもの体調管理です。保育園で風邪が流行ったら即マスク登校させたり、免疫力をつけさせるために動物園がいいと聞くと動物園に連れて行って雑菌に慣らしたり(笑)。おかげで、保育園はほとんど休むことなく通ってくれました。

佐藤:それは、すごい。

樋口:これは産休に入る前のスタッフにも伝えていることですが、子どもが突然体調を崩したとき、誰が面倒を見るのかというプランは事前に作っておかないといけないですね。 仕事をする上で子どものことを言い訳にはしない。結婚も出産も誰かに頼まれたわけじゃなくて、自分が望んだことなのだから、職場になるべく迷惑をかけないようにと考えました。

佐藤:そこまでの決意があるからこそ、スタッフの皆さんからも信頼され、応援してもらえるんでしょうね。

ワーキングマザーの存在は、お店にとってもプラスになる

佐藤:「子どもを産んでキャリアが中断されるのが怖い」という女性の声をよく聞きますが、樋口さんを見ていると、逆に、出産・子育ての経験が美容師としての幅を広げているように感じます。

樋口:確実に言えるのは、自分の中での経験値が増えているということです。たとえば産後は髪の毛が抜けますよね。以前なら知識としてしか知らなかったことが、今なら「生え際が抜けやすいから頭皮に優しいアミノ系のシャンプーを使うといいですよ」とか「たんぱく質と葉酸を多めにとりましょう」とか、自分も経験したから言えることがあって、そのおかげで、お客様との信頼関係がより深くなったと感じます。

佐藤:樋口さんは同世代のお客様が多いんですか?

樋口:子育て世代も多いですし、ちょうど初孫ができたくらいのお客様も多いんです。お孫さんの学校や病気のこと、七五三のアレンジのことなどをよく相談されます。こういったことは、やはり経験したからこそリアルなアドバイスができるので、ママ美容師がお店にいることは会社にとってもプラスになっています。

佐藤:今やapishさんは「子どもを産んで復帰しやすいサロン」として業界でも注目を集めていますが、その裏には、樋口さんが築いてきた道筋があったのだと、今日改めて思いました。

(後編に続く)
撮影/中村彰男 

 
※当記事はHAIR(hair.cm)からの転載記事です。(元記事:https://hair.cm/article-36171/

プロフィール

樋口いづみ(ひぐち・いづみ)

「apish」スタイリスト兼プレス担当。スタイリスト歴17年。坂巻哲也氏の経営するapishのオープニングメンバーとして参加。美容業界では、「ヘアアレンジの女王」と言われており、女性ならではの感性を生かしたスタイル提案が得意。7歳の女の子を持つママ美容師としても雑誌やセミナーで活躍しており、女性美容師はもちろん一般女性にとっても憧れの存在となっている。

佐藤友美(さとう・ゆみ)

日本初のヘアライター&エディター。ファッション誌やヘアカタログの「髪を変えて変身する企画」で撮影したスタイル数は4万人分を超える。「美容師以上に髪の見せ方を知っている」とプロも認める存在で、セミナーや講演を聞いた美容師はのべ2万人を超え、これは全国の美容師の20人に1人の割合にあたる。著書に7万部突破のベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)、発売即重版となった『道を継ぐ』(アタシ社)などがある。

『道を継ぐ』とは?

49歳でスキルス胃がんによってその生涯を閉じた伝説の美容師・鈴木三枝子を描いたノンフィクション。今なお人々の心に残り、動かし続ける彼女のメッセージとはどのようなものなのか。1年半の歳月をかけ、191人の関係者に取材を敢行した先にたどり着いた「答え」は、働く女性にとって、強く心に響くものがある。「働き方・生き方を見直すきっかけになった」と、年代・世代を超えて感想が寄せられており、業界を超えて大きな反響を巻き起こしている。

※当記事はHAIR(hair.cm)からの転載記事です。(元記事:https://hair.cm/article-36171/
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